女性のカラダを守る“菌”のチカラ――臨床腸内細菌学研究者の視点から
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- コラム
我々の腸内には、数多くの微生物が共生的に生息している。
医学領域では専ら我々の健康に有害な病原菌の研究が行われてきたが、我々と共生する腸内微生物の大方は、我々には有害な作用を示さない。
筆者の専門はこの「腸内微生物」であり、特に、その健康へのかかわりに着目した研究を続けてきた。
取り組み方は、主に基礎的な実験による、様々な微生物機能の解明やその働き方(作用メカニズム)を明らかにすることである。
一方で、微生物が疾病と深くかかわることから、長期間にわたり、消化器外科、救命救急、小児医療、など様々な領域の臨床機関との共同研究も行っており、これらの領域の様々な疾病の患者さんの腸内微生物叢の異常も解析してきた。
この意味では、専門は「臨床腸内細菌学」ということもできる。
また、さらに、最近では、健康の増進に資する微生物を「プロバイオティクス」と呼んでおり、さまざまなプロバイオティクス菌株を含有する食品、化粧品、さらには整腸薬などの医薬品などが世界中で利用されている。
プロバイオティクスとして利用される菌種の多くは乳酸桿菌である。
その理由として、古くから発酵食品の主体的な菌種として利用されていること、主要な発酵産物である乳酸の酸味や抗菌性、などが考えられる。
筆者は、専ら、プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌)による生体防御能の賦活作用の研究に従事してきた。
我々と“共生する微生物”は、腸だけでなく腟にも存在し、女性の健康と密接な関係を持っている。
この点は、フェムケア製品を扱うHanamisui社にとっても重要な研究テーマである。
ドイツの産婦人科医であったAlbert Döderlein(1860-1941)は、腟内細菌叢を発見した。
健常女性の腟内の最優勢菌である乳酸桿菌を、発見者の名に因んでDöderlein(デーデルライン)桿菌と呼んでいる。
現在の系統分類学では、乳酸桿菌に属する菌種は260を超えるが、腟内に常在する乳酸桿菌の菌種は、ほぼ、L. crispatus, L. gasseri, L. inners, およびL. jensenniの4菌種で占められることが分かっている。
腟上皮細胞への接着、腟上皮にて産生されるグリコーゲンの資化能、自ら産生する乳酸により低下した腟内pHに耐性、などの性質を有するこれらの限られた菌種のみが腟内定着するものと考えられている。
その中でも、およそ3名に1人は、L. crispatusを主要な乳酸桿菌として生息している。
産婦人科では、腟内細菌叢の異常(細菌性腟症)は、ヌーゲントスコア(Nugent score)で診断される。
すなわち、スワブで採取された腟粘液をスライドグラスに塗る。
これをグラム染色し、顕微鏡下で微生物観察すると、健常者の腟内の最優勢菌である乳酸菌は棒状で紫色に染まる(グラム陽性)。
一方で、腟内の有害菌であるGardnerellaやMobiluncusは赤く(グラム陰性)染めだされる。
これらの染色された菌体の数の比率から、腟細菌叢の異常(細菌性腟症)を診断する。
一方で、腟内の日和見的な有害菌として、上記のGardnerellaやMobiluncusに加えて、Atopobium (Fannyhessea) vaginaeが知られている。
さらには、StreptococcusやPrevotellaなどもマイナーな細菌として検出される。
これらの「腟内微生物叢」を総じて精度よく定量的に解析するために、筆者らは、「定量的RT-PCR法」を確立した。
腸内にしろ、腟内にしろ、部位に応じた微生物叢がどのように構築されるか、また、その構成や機能の恒常性がどのように保たれているのか、まだまだ未解明な状況である。
その中核をなす、colonization resistance(コロナイゼーション・レジスタンス)機構の解明および、これに基づく適切な微生物制御法の開発により、健康に資する我々の共生微生物叢を得ることができる。
特に、Hanamisui社の主眼とする「女性の健康増進から社会の健康増進」について、微力ながら今後もお手伝いさせていきたく考えている。
著者プロフィール

筆者紹介:野本康二
役職:客員教授(分子微生物学科)
所属:東京農業大学 生命科学部 分子微生物学科
学位:薬学博士
専門分野:腸内フローラの解析およびプロバイオティクス(シンバイオティクス)の基礎・臨床研究
主な業績:
・定量的RT-PCR法に基づく腸内フローラ解析システムの開発